
今週の量子コンピュータ関連ニュースは、民間と海外でお金が動いた一週間でした。政府のCHIPS法20億ドルに続き、IBMが独自に100億ドル超(約1.5兆円)の量子投資計画をSECに開示。同じタイミングでドイツの量子企業が東京・千代田区に日本法人を設立し、マサチューセッツ州もMITに2,500万ドル(約37億円)の量子研究所を新設しました。政策マネーから民間・海外へと、量子への資金の流れが一段と広がっています。
IBMが自前で100億ドルを量子に投じる:政府資金に続く民間の本気
以前の記事でお伝えした通り、米政府はCHIPS・科学法に基づいて9社に総額20億ドル(約3,000億円)を支援する方針を発表しており、IBMの量子子会社に最大10億ドル(約1,500億円)、半導体製造のグローバルファウンドリーズ(GFS)、そして私が保有するRigetti(RGTI)やD-Wave(QBTS)も対象として名指しされています。
今週の新しいニュースはその先にあります。IBMが政府資金とは別に、SEC(米証券取引委員会)への開示書類の中で、今後5年間に量子コンピューティングへ100億ドル超(約1.5兆円)を自前で投じる計画を明らかにしたのです。政府からの支援額の10倍に相当します。
SECへの開示は法的拘束力があり、「言うだけ」ではありません。IBM(ティッカー:IBM)はAIやクラウドを手がける総合ITの大企業であり、純粋量子銘柄ではありませんが、今回の宣言は量子事業をコアビジネスとして株主に公式にコミットした意味を持ちます。複数のメディアは「量子ブームが戻ってきた。IBMはその最も賢い買いだ」とも評しています。
純粋プレー銘柄の投資家目線で見ると、IBMの本格参入は両刃の剣です。量子業界全体の信頼性と市場拡大につながる追い風の一方、10年後には強力な競合になりうる存在でもあります。ただし、IBMが注力する超電導方式はIonQのトラップイオン方式とアーキテクチャが異なるため、すべてのユースケースで直接競合するわけではありません。市場が複数の方式を並走させながら拡大していく可能性も十分あります。
【出典】
- Rational exuberance: Inside Washington's $2 billion quantum gamble(Yahoo Finance)
- IBM Plans $10 Billion Quantum Push as Efforts to Commercialize Quantum Intensifies(The Quantum Insider)
- IBM Has a $10 Billion Plan to Build the Ultimate Quantum Computer(Yahoo Finance)
量子が世界へ広がる:ドイツ企業の日本上陸、MITへの2,500万ドル投資
資金の動きはアメリカ国内にとどまりません。今週は「量子の地図」が世界規模で広がる出来事が重なりました。
ひとつは、ドイツを拠点とするフルスタック量子コンピューティング企業「QUDORA(キュドラ)」が、日本法人「QUDORA Japan K.K.」を東京・千代田区で設立したとの発表です。フルスタックとは、量子コンピュータのハードウェアからソフトウェアまでを自社で手がけることを指します。欧州の量子企業がアジア太平洋地域への足がかりとして日本を選んだ事実は、日本の量子市場への期待感の高まりを示しています。直接投資できる上場銘柄ではありませんが、日本が量子の「実用地」として認識され始めていること自体が、長期的な量子投資環境の整備という点で意味を持ちます。日本でのユーザー層が育てば、IonQなど海外量子企業のアジア戦略にも波及する可能性があります。
もうひとつは、マサチューセッツ州のモーラ・ヒーリー知事とMITのサリー・コーンブルース学長が共同で発表した「MIT量子システム研究所(Quantum Systems Laboratory)」の設立です。州政府が2,500万ドル(約37億円)を拠出し、次世代量子技術の実用化加速を目的とします。MITはIonQやD-Waveなどの主要企業と研究提携のある学術拠点であり、こうした公的投資は量子エコシステム全体の厚みを増すことになります。「政府→企業」だけでなく「政府→大学→産業」というルートでの資金循環が動き始めているとも読めます。
さらに視野を広げると、ロンドンの量子コンピューティング企業「Moth」が、量子コンピュータで生成された世界初の消費者向けゲーム「Quantum Backrooms」をリリースしました。「量子コンピュータでゲームが遊べる」という事実は、技術が実験室を飛び出して日常に近づいてきたことを示す象徴的な一歩です。株価への直接的な影響は限定的ですが、量子の「ChatGPTモーメント(爆発的普及の転換点)」がいつ来るかを考える上で、消費者向けユースケースの登場は軽視できません。
【出典】
- QUDORA Announces Operational Launch of QUDORA Japan K.K.(The Quantum Insider)
- Massachusetts Invests $25 Million in MIT Quantum Lab(The Quantum Insider)
- Quantum Computing Is Approaching Its ChatGPT Moment(The Quantum Insider)
投資家目線の考察:「お金の質」が変わってきた
今週のニュースを通じて感じるのは、量子への資金の「質」が変わってきたことです。
かつては「量子ブーム」という言葉に踊らされた短期の投機マネーが中心でした。しかし今週のIBMの100億ドル自己投資の開示は、企業が株主に向けて量子を公式にコミットした宣言です。SECへの開示は法的拘束力があります。政府・民間・学術の三方向から資金が流入し、量子エコシステムの基盤整備が着実に進んでいる週といえます。
一方で、この週には別の強い材料もありました。IonQがQ1(2026年第1四半期)の売上高で前年比755%増を記録し、2026年通年の見通しを引き上げています。「期待で動く銘柄」から「数字で動く銘柄」への変化が少しずつ見え始めており、私が保有するIonQ(IONQ)にとってはファンダメンタルズの裏付けが積み上がっている状況です。
Rigetti(RGTI)については108量子ビット(qubit)の新チップ「Cepheus-1」を発表しています。量子ビット数の増加は量子優位性(古典コンピュータを上回る計算能力)への前進を意味しますが、ビット数だけでなく「エラー率の低さ」が実用化の鍵になる点は忘れないようにしたいところです。D-Wave(QBTS)は直近30日で約63%上昇という強い値動きが続いており、バリュエーション評価の記事も出始めています。
強気の見方:政府と民間の資金が同時に動き、地政学的に世界各地にインフラが広がっている。量子の実用化は想定より早く来るかもしれません。弱気の見方:IBMのような大企業が本腰を入れるほど、純粋プレー小型株の相対優位性が問われる局面も来ると考えられます。両方の視点を持ちながら、長期目線でポジションを維持していく方針に変わりはありません。
来週以降の注目ポイント
IonQのQ1決算詳細と通年ガイダンスの中身、IBMの100億ドル計画への市場評価の続報が注目点です。量子への資金の流れは確実に大きくなっていますが、値動きは激しいため、自分のリスク許容度を確認しながら向き合っていきましょう。それでは、また。