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IonQがQKDで稼ぐ軸を転換:セキュリティ本格参入の真意

IonQがQKDで稼ぐ軸を転換:セキュリティ本格参入の真意

今週の量子コンピュータ関連ニュースは、「戦略の転換」と「政府マネーの本格投下」という2つの大きな動きで整理できます。IonQは新型QKD製品を発表するとともにアイルランドで初の商業展開を決め、収益の軸足をセキュリティへと本格移動させはじめました。一方でRigettとD-Waveは、それぞれ米政府から最大1億ドルの資金調達を同じ週に確保。量子業界への公的支援が一段と加速していることを示しています。

IonQ:「量子コンピュータ会社」から「量子セキュリティ会社」へ

2026年6月17日、IonQ(NYSE: IONQ)は「Clavis XG Multiplex」を発表しました。QKD(Quantum Key Distribution:量子力学の原理を使い、理論上解読不可能な暗号鍵を安全に届ける技術)の新製品で、既存の都市光ファイバー網に量子データと従来のデータを混在させて流すことができます。これにより企業は大規模なインフラ工事なしに量子セキュリティを導入できるようになります。IonQはこれを「エンタープライズグレードのネットワーク統合において、形状・保守・設定・管理の面で明確な優位性がある」と位置づけています。

同じ週、IonQはアイルランド・ダブリンのHorizon Quantum Computing本社に256量子ビットのイオントラップ型量子システムを展開することも発表しました。従来の研究機関向け設置とは異なり、今回はHorizon QuantumのBtoB顧客が商業ベースで利用できる設備として設置されます。米国中心だったIonQの事業が、欧州の商業市場へと広がる初の本格的な一手です。

これらの動きが示しているのは、IonQの投資ナラティブの変化です。これまでIonQは「量子コンピュータのハードウェアメーカー」として評価されてきました。しかし今週の動きを見ると、量子セキュリティ(QKD)製品を商業スケールに乗せることで、より近い将来に収益化できる路線を明確に打ち出しています。

背景には「ハーベスト・ナウ・ディクリプト・レイター」と呼ばれるリスクがあります。これは「今のうちに暗号化データを大量に収集しておき、将来の量子コンピュータで一気に解読する」という攻撃手法で、特に政府機関・金融・防衛分野が警戒を強めています。QKDはその対策として有効であり、量子コンピュータの実用化を待たずに「今すぐ売れる製品」になりつつあります。前回の記事ではQuantinuum上場でIonQの株価が急落したことを取り上げましたが、IonQがセキュリティという「第二の収益の柱」を築きはじめたことは、競合との差別化という観点で中長期的に評価できる動きだと思っています。

【出典】

Rigetti・D-Wave:1億ドル×2社、米政府の量子支援が加速

今週、量子業界に1億ドル規模の政府資金が2件同時に流れ込みました。

まずRigetti Computing(NASDAQ: RGTI)は、米商務省(DoC)との間で最大1億ドルの補助金に関する意向書(LOI:正式契約の前段階にあたる合意文書)に署名済みで、今週はあらためてその内容が注目されました。資金は超電導量子コンピュータの研究開発に3年間で投じられる予定です。あわせてRigettはHPEが主導するハイブリッド量子スーパーコンピューティングコンソーシアムへの参加も報じられています。

ただし独立系アナリストからは「このDoC発表後でも、RGTIは26.5%割高」との分析が出ています。直近1ヶ月で約21.8%、3ヶ月で約31.4%と急騰してきた株価には、好材料を先取りしすぎている可能性があります。年初来ではまだ約14.2%下落と、上下に振れやすい状況が続いています。

一方、D-Wave Quantum(NYSE: QBTS)はCHIPS Act(米国の半導体・先端技術産業を支援する連邦法)の枠組みを通じて最大1億ドルの資金調達を確保しました。D-Waveにとって初の直接的な連邦支援です。同時にD-Waveは2032年までに100論理量子ビットを達成するゲートモデル型量子コンピュータのロードマップを発表。2026年9月には、実際のノイズ(計算誤差)や信頼性を模擬する「エラー対応量子シミュレータ」のリリースも予定しており、現行の量子アニーリング(特定の最適化計算に特化した方式)に加えた第二の技術軸を着々と育てています。

投資家的に気になるのは、D-Waveへの評価の二極化です。Mizuho証券は目標株価を35ドルに引き上げ「Outperform」評価を継続しています。一方で、億万長者(ビリオネア)投資家のD-Wave保有総額は2025年第4四半期の約9,553万ドルから2026年第1四半期には約3,967万ドルへと、約5,586万ドル(約58.4%)も減少しています。大口が利益確定を進めているなか、政府支援への期待でリテール投資家が買い上がっているという構図が透けて見えます。

【出典】

投資家目線の考察

今週は「政府マネーの信頼性」と「ナラティブのシフト」という2つのテーマが重なりました。

強気の視点から見ると、米政府がRigettとD-Waveにそれぞれ最大1億ドルを割り当てたことは、「量子コンピュータは国策として支援される技術だ」という強いシグナルと考えられます。LOI段階でまだ正式確定ではないものの、政府系の資金が流れると企業の研究開発余力が増し、商業化スピードの加速につながる可能性があります。IonQのQKD戦略も、長期でみればセキュリティ市場での早期ポジション確立という意味で評価できるかもしれません。

弱気の視点では、ビリオネア勢のD-Wave大量売りが気になるシグナルです。「政府支援が決まったら売る」という動きは、好材料での利益確定という古典的なパターンかもしれません。RGTIの「26.5%割高」分析も、3ヶ月で3割超急騰した後では素直に受け止めるべきでしょう。株価が実態に先行してしまっているフェーズに入ってきた可能性があります。

私自身はIonQ・Rigetti・D-Wave・QUBTを保有しており、今週の動きはどれも中長期の保有方針を揺るがすものではないと考えています。ただし短期でのポジション追加は、RGTIの割高感やQBTSのビリオネア売りを踏まえて慎重に判断したいところです。

まとめと来週の注目点

今週の量子株は、IonQのQKD路線という「ナラティブの転換」と、RigettとD-Waveへの「政府支援の具体化」という二つの流れが重なった週でした。来週以降はIonQのQKD受注が商業規模に乗ってくるか、RigettとD-WaveのLOI・CHIPS Act資金が正式確定に向かうかが次の価格材料になるでしょう。D-Waveが予告した9月のシミュレータリリースも、注目しておきたいポイントです。投資は必ず自己判断・自己責任でお願いします。それでは、また。