
今週の量子コンピュータ関連ニュースは、これまでの急騰を冷静に見つめ直す論調が目立ちました。IonQとRigetti(RGTI)は好業績にもかかわらず「もう割高では」という声が強まり、D-Waveには国の研究機関から助成金が相次いで決まりました。一方でMicrosoftの量子ビット主張には技術的な疑義が投げかけられています。今週の動きを保有投資家として整理します。
IonQ・Rigettiに広がる「割高警戒論」:好業績でも高まる慎重論
IonQは過去5年間で株価が約392.3%上昇しました。驚異的なリターンですが、あるバリュエーション分析では現在の株価が「割安とは言えず、むしろ割高」と評価されています。期待される急成長や政府案件の追い風は、株価にすでに相当織り込まれているという見方です。
Rigetti(RGTI)も似た構図です。過去3年で約13倍という上昇を遂げましたが、広範なバリュエーション指標では「フルバリュー(割高)」と判定されています。政府の資金支援や新システムの稼働は長期的な成長期待を支えますが、継続する資金流出(キャッシュバーン)を正当化できるほどの根拠かどうかは、慎重に見極める必要があります。
ただし両社とも財務基盤は堅調です。IonQは31億ドルの流動性と、着実に積み上がる4.7億ドルの契約済み受注残高を確保しています。Rigettiは無借金で5.69億ドルの現金を保有し、量子チップの自社製造拠点「Fab-1」や、より多くの量子ビットを扱う次世代システムへの投資余力を確保しています。
つまり「株価は割高かもしれないが、事業基盤は確実に強くなっている」というのが今週の実態です。この2つを切り離して考えることが、保有投資家には求められています。
【出典】
- IonQ (IONQ) Stock Looks Pricey On Earnings Yet Strong On Returns(Yahoo Finance)
- Here's How Financial Strength Remains a Key Advantage for IONQ(Yahoo Finance)
- Rigetti Computing (RGTI) Stock Looks Fully Valued After A Huge Run(Yahoo Finance)
- Rigetti's Robust Liquidity Strengthens Its Quantum Computing Outlook(Yahoo Finance)
D-Waveに相次ぐNSF助成金:フォールトトレラント量子への布石
D-Wave Quantum(QBTS)は今週、米国立科学財団(NSF)から2件の助成金決定を受けました。1件目は「National Quantum Virtual Laboratory(NQVL)」プログラムを通じた156万6,250ドルの助成金です。誤り耐性量子(計算ミスを自動修正できる量子コンピュータ)の実現に向けた「ERASE」プロジェクトの主要パートナーとして選ばれました。
もう1件はイェール大学が主導する研究への参画で、こちらも同じERASEプロジェクトの枠組みの一つです。D-Waveが持つデュアルレール型のゲートモデル量子システムへのアクセスを、学術研究者に提供する内容となっています。
D-Waveはこれまでアニーリング型(特定の最適化問題に特化した方式)を強みとしてきた企業ですが、ゲートモデル型への展開も並行して進めています。今回の助成金は金額としては大きくありませんが、政府・学術機関から「誤り耐性量子の実現に必要なパートナー」として認められた点に意味があります。
先週触れた「2028年までの量子開発を国家目標とする」という政策の方向性が、実際の資金という形で個別企業に流れ始めた事例と見ることができます。金額規模はまだ小さいものの、今後この種の助成金が積み重なっていくかどうかは、注目しておきたいポイントです。
【出典】
- D-Wave to Receive $1.5 Million Grant Through NSF Project to Strengthen U.S. Quantum Computing Leadership(Yahoo Finance)
- D-Wave Quantum (QBTS) Secures NSF Grant For Yale Led Fault Tolerance Research(Yahoo Finance)
Microsoftの量子ビット主張に疑義:技術的信頼性を巡る対立
Microsoftが2025年に発表した「マヨラナ量子ビット(理論上ノイズに強いとされる特殊な量子ビット)」の実現主張に対し、査読誌Natureに疑義を呈する論文が掲載されました。論文は、Microsoftの結果が計算上の誤りと、選択的に提示されたデータに基づいている可能性を指摘しています。Microsoft側は「誤りは些細なものであり、物理学的な結論は揺るがない」と反論しており、決着はついていません。
一方で同じ週に、IBMの量子ハードウェアを使った実務的な研究成果が報告されています。米エネルギー省オークリッジ国立研究所のプログラムを通じ、研究者がIBM量子コンピュータに遠隔アクセスし、素粒子物理学における重要なプロセスのモデル化に成功しました。
この対比は象徴的です。量子業界では「ブレークスルー」を巡る華々しい発表が相次ぐ一方、その主張の検証には長い時間がかかり、時に覆ることもあります。逆にIBMのように地道な実用研究を積み重ねる動きも並行して進んでいます。投資家としては、話題性の大きさと技術的な確からしさを分けて評価する視点が欠かせません。
【出典】
- Clouds of Uncertainty Dog Microsoft's Majorana Qubit Claims(Quantum Zeitgeist)
- Researchers Use IBM Quantum Hardware to Model a Key Particle Physics Process(The Quantum Insider)
投資家目線の考察:割高警戒と地道な進捗をどう受け止めるか
今週を振り返ると、「株価の過熱感」と「事業の地道な進展」が同時に進んでいる印象です。強気の観点では、IonQ・Rigettiともに財務基盤が強く、D-Waveは政府・学術機関からの信頼を積み上げつつあります。保有するIonQ・Rigetti・D-Wave・QUBTのいずれも、事業の土台という意味では悪くない一週間だったと考えられます。
弱気の観点では、IonQ・Rigettiの株価にはすでに大きな期待が織り込まれており、決算や政策の進捗が期待を下回れば調整が入る可能性は十分にあります。D-Waveの助成金も、現時点では金額として大きなインパクトを持つものではありません。Microsoftの事例が示す通り、量子業界の「発表」は後から見直しが入ることもあるため、一つのニュースに一喜一憂しすぎないことが大切かもしれません。
来週以降は、IonQ・Rigettiの次回決算での成長率の続き方と、D-Waveの助成金が具体的な製品・売上にどうつながるかに注目していきたいと思います。量子業界は期待と実績のギャップを埋めていく段階に入りつつあります。焦らず長期目線で、引き続き動向を追っていきます。投資はあくまで自己責任でお願いします。それでは、また。